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点と線〜松本清張生誕100年記念特別バージョン 2009.11.8
こんばんは。石坂浩二でございます。今年は松本清張生誕100年にあたる年なんですね。そこで『点と線』をお届けしようと思います。松本清張…改めてわたくしがご説明することはないと思います。まさに日本の推理小説界に大きな石を投じた作家といえるでしょう。この『点と線』をはじめとして『ゼロの焦点』『疑惑』『黒革の手帖』『砂の器』などなど数多くのベストセラーを生んだ作家です。『点と線』は300万のベストセラーだったそうですね。昭和32年の日本を舞台に北は北海道から南は九州まで本当に日本列島を駆け巡るそのスケールの大きさそしてあの有名な東京駅での4分間のミステリー。政官癒着の汚職事件に鋭いメスも入れた社会派推理小説ともいえます。まあこの作品なかなか映像化が難しく企画があっても流されてきたんですけれども…。その理由としてはなんといっても昭和32年の東京駅を再現しなくてはならないという点にありました。ところが今回見事に全スタッフの力で昭和32年の東京駅の再現に成功いたしました。そしてこの作品が生まれたというわけです。『点と線』どうぞ最後までゆっくりお楽しみください。
(汽笛)
(汽笛)♪〜〈鹿児島本線を門司方面から行くと博多に着く3つ手前に香椎という小さな駅がある〉〈近くに西鉄の香椎駅があり海のほうに行くと博多港を見渡す海岸に出る〉〈前面には海の中道が帯のように延びてその端に志賀島の山が海に浮かびその左のほうには残の島がかすむ眺望のきれいな場所である〉〈大伴旅人は「いざ児ども香椎の潟に白妙の袖さへぬれて朝菜摘みてむ」と詠んだ〉〈昭和32年春にしては寒い4月21日の朝6時半頃〉おーい!おーい!おーい!
(カメラのシャッター音)
(警察医)青酸カリやね。2人とも青酸カリば飲んどる。
(田中捜査係長)ちゃんと並んで死んどるなぁ。
(中西刑事)心中したばいね。このジュースに青酸カリば混ぜとうたい。先生死後どんぐらい経っとりますか?帰ってよう見なきゃわからんばってんまず10時間以内かな。10時間。そうすっと昨夜の10時か11時頃か。
(鳥飼重太郎)寂しかとこで死んだもんですね。
(田中)うん。先生自殺ですよね?無理心中じゃなかでしょ?無理心中じゃなかやね。
(警察医)着衣の乱れもなかやし格闘した様子もなか。やっぱり合意のうえで青酸カリば飲んで死んだとでしょ。
(田中)そうかそうか。じゃあ解剖はせんでよか。
(警察医)そうやね。なんばしよっと?いやジュースねぶるといかんけん。んっ?
(中西)ハハハ…。
(刑事たちの笑い声)
(田中)おい早よう搬送せえ。
(刑事)はい。おい!搬送じゃ!はい。♪〜〈この時警視庁捜査二課は東京オリンピックに向けての環状道路予定用地買収に関した産業建設省の汚職を捜査していた〉開発局の中尾課長はまだだんまりですか?
(寺崎捜査課長)自信はあります。間もなくだと思います。
(中西)わかっちょうわかっちょうよし行くべや。トリさん先行っちょくばい。うん。
(田中)中洲で米兵が暴れとるとよ。後藤トリさんと行ってくれんね。
(後藤刑事)はい!トリさん!汚職事件だ。「産業建設省課長補佐佐山憲一」?寺内!
(寺内刑事)はい!後藤と中洲行け!中洲…。行くぞ。はい。遺書は?遺書はありません。女のほうには?遺書はありません。身元は?ええ…。「割烹料亭小雪とき」と書いてあります。「とき」っちゅう名前か。役人と料理屋の女中の情死か。トリさん警察医も心中だと言うとるとよ。いや産建省が汚職で騒がれてる時心中と決め付けるのは…。じゃあなんか?俺が殺しじゃなかほうが楽でよかと思うとるとでも思ってるのか?やっぱり変です。変ってなんね?列車食堂の領収証。日付は4月14日。列車番号は7。人数お1人様。合計金額340円。東京日本食堂。何が変なんじゃ?いやぁ佐山憲一は食堂車で1人でメシば食べたんですか?女のほうは食いたくなかったけん一緒に行かなかったんだろうが。ホントにもう…。
(永井捜査課長)主任!あっ。産業建設省の官僚やって?ええ。追いかけられて自殺する…。まあようあるケースばい。ああ博多駅ですか?あの…ちょっとお訊きしたいことがあるんですが。はい。
(児島刑事)三原さん!
(三原紀一)おうどうした?佐山が死んだ?ええ列車は東京発下り特急のあさかぜ。はい。領収証に4月14日とあるのは14日に東京を出たってことですね?お忙しいところどうもすいませんありがとうございました。はいどうも。今日21日ですから14日に東京を出て1週間何してたんですかね?1週間な…。まあ死に場所ば探してウロウロしとったんかね?ハハ。私あの…市内の旅館ちょっと当たってみます。
(田中)うん。佐山課長補佐が女と心中か…。これで汚職の捜査は難しくなったな。
(笠井捜査係長)姿消した時からやばいとは思ってましたがまいりましたねぇ。お疲れさまです。〈佐山課長補佐は汚職の全容を知る重要な人物だったのである〉佐山に逃げられたのは君たちの失点だ!君たちって…あなたも責任者の1人じゃないですか。おい…。
(笠井)三原…。博多東署行ってくれ。はい。佐山は上司かばって死んだんだろうが女と一緒というのがどうも腑に落ちないんだよ。はい。〈鳥飼は死んだ2人の泊まった旅館ホテルを探し歩き博多駅のそばの鳳明館という旅館に佐山憲一が菅原泰造という偽名で泊まったことを突き止めた〉15日の晩から20日までお1人でお泊まりになりました。女の人は?いえ。ずっとお1人でした。本ば読んだり寝っ転がったりしとりました。陰気な客やと女中も話しておりました。ずーっと電話のかかってくるのを待っとったばいね。電話?あの…私布団敷かんと。おい!ちょっとあんた!
(鳥飼つや子)誕生日のプレゼント。舶来ばい。その靴やときっとよか仕事できるばよ。
(小林安子)重太郎さんったら。信子が笑っとるばい。今度の誕生日伯母さんにも靴買うてあげる。
(安子)いやよかよ!結婚資金貯めとかんといけんばいあんたも。つや子。うん?つや子…列車で旅してて恋人が食堂車へ1人で行くっちゅうたらお前どげんする?うん…うちも一緒に行くわ。腹がすいてのうてもか?もちろんよ!1人なんて嫌よ。一緒に行ってコーヒーでも飲むわ。うん…。失恋したばっかりなのに。しょうもなか父親…。つやちゃーん。はーい。
(2人の笑い声)信子今年もまたつや子から靴ばもろうたよ。〈翌日から鳥飼は佐山と心中をした女の宿泊先を探した〉〈不思議なことに女が泊まった旅館は見つからなかった〉鳥飼君!東京の警視庁の方や。あっ…。警視庁捜査二課の警部補三原紀一と申します。鳥飼です。女が泊まった旅館わかりましたか?見つかりません。確かにおかしいですよね。情死した男女が別々にいたっていうのは。女は博多に泊まってない可能性があります。鳥飼君は異論があるらしかが。えっ?2人の家族の方が見えとるけん三原さんと一緒に話ば聞いたらどげんね。はい。おう。ご家族は今日初対面ですか?今日初めてばい。あの…佐山さんがお時さんとお付き合いしてたってことは…。
(佐山の兄)知っていたら別れさせましたよ!いや…弟は3年前に家内を亡くして前から二度目の結婚話が持ち上がっておりました。ところがなかなかうんと言わないので変だと思っていたんですが…。いやいや…まさか赤坂の小料理屋の女とは。
(とみ子)ちょいと!お言葉ですけどねお時さんには身分の高い男の人からたくさんの交際のお申し込みがあったんですからね。佐山さんのような下級官僚と心中だなんてこっちも夢にも思いませんでしたわよ。なんだって!?
(田中)静かにせんね。あの…お母さんは佐山さんのことは聞いたことありますか?
(桑山ハツ)いいえ。聞いたことがない?はい。あの子は湯沢で一度お嫁に行って…。湯沢?秋田の湯沢です。湯沢の農家ですか?はい。戦争前は小作農家で。秀子は終戦後村の男の人と結婚したったです。だどもその人は兵隊の時に体を壊して昭和25年に亡くなったんです。娘が生まれてあったもんで…。娘?はい。それで秀子は東京で働いてお金を送ると言って出て行きました。毎月お金を送ってくれました。小雪さんでお世話になる前は二〜三度仕事を変わったみたいですけんど便りも年に2回か3回でどんな暮らしをしてるのか全然…さっぱりわかりませんでした。佐山さんていう方のこともなんも知りませんでした。娘さん今日は?湯沢に。事件のことは知らせてねえったす。お時さんに娘さんがいることを知ってましたですか?いいえ。聞いたことありません。お時さんは無口な人で誰かが話しかけなければめったにしゃべらない人でした。さっき交際の申し込みがたくさんあったっておっしゃいましたよね。ええ。あっでも全部袖にしてましたよ。お座敷でお客様に無理に約束させられてもすっぽかしてました。ですから一度も浮いた噂は聞いたことがありません。それに一度も佐山さんはお店に来たことがありません。来る前に女将さんにも聞いたんですけど知らない方だってびっくりしてました。つまりこの心中は皆さんにとってまったく意外なことだとお思いですね?ええ。でも…。う〜ん…。私と八重子さんはお時さんと佐山さんが一緒にいるところを見たんです。一緒!?佐山さんとお時さんが一緒のところを見たんですか?ええ東京駅で。東京駅でいつですか?
(とみ子)4月の14日の夕方に。14日の夕方。八重子さんというのは?小雪の女中で私の友達です。あなたとその八重子さんはなんで東京駅に行ったんですか?ああ…いつもお店を使ってくださる安田さんというお客様とお食事に行ってその後東京駅のホームまで八重子さんと2人でお見送りに行ったんです。私たちは13番ホームにいたんですが15番ホームが見えたんです。まあ…お時さんが。
(とみ子の声)私たちは知りませんでしたけど2人は恋人同士だったような…。はい…。秀子は佐山さんに同情したったすねぇ…。だって一度も来たことのねぇところで薬飲んで死ぬなんてよっぽど好きだったんでしょう。
(田中)お気の毒でした。ところで佐山さんは香椎海岸に行ったことはありましたか?いえ…聞いたことがありません。しかしね!弟が道連れにしたような言い方は…。申し訳ねえっす。悪かったね…。さあさあ…ではお疲れさまでした。あのちょっと…すみません。あの…あなたたちが見送った安田さんというのはどういう方ですか?商事会社の社長さんよ。安田交易って言ってたわ。鎌倉にご自宅があるのよ。病気の奥様を大事になさってとってもいい方ですけど。ああどうも。佐山です。お時です。意外でした。きれいですね。青酸カリです。顔が桃色になるんです。私は二課ですから死体を見てもよくわかりませんが…。はい。鳥飼さんのような大ベテランですと死体を見てなんと感じるものなんですか?死体をですか?ええ。生きたい…。生きたい?はい…生きたい。この手…指…。楽して生きてきた手ではありません。娘が秋田におるのになんで死んだんでしょうか?〈夕方三原は警視庁捜査二課に電報を打った〉
(笠井)「サヤマトオトキハジョウシナリ」「ナオサンケンショウトヤスダコウエキノカンケイヲソウササレタシ」安田交易!?あれが国鉄香椎駅です。ああ。ここです。ここですか。私なら女と死ぬならこげなとこば選びません。ひなびた温泉とかきれいなとこば選びます。それは人それぞれだと思いますが。博多から来る9時24分の列車があるけん2人はそれに乗って来たのかもしれません。〈鳥飼は事件当夜海岸に向かった2人を目撃した者がいないか聞き込みを始めた〉ああ見ましたばい。見た?ええ。降りた乗客の中に心中した2人がおったとですね。はい。黒っぽいコートを着た男と和服姿のおなごが2人あっちのほうに歩いて行きました。海岸のほうへ行ったんですか?そうです。そばに怪しい奴いませんでした?さあ…。りんご2つ。はい。わかりました。どうもありがとうございました。わかりました。ええとお時と佐山は9時24分着の上りで博多から来ました。すると博多は9時10分頃の乗車だと思われます。ここまで15分ぐらいかかりますから。ああ…。彼も2人を見たと言ってますよ。
(女)随分寂しいところね。随分寂しいところね…。ええ。女は土地のなまりのない標準語だったそうです。ありがとうございました。先ほどの目撃者は2人が西鉄香椎駅から海岸へ向かう道を後ろから急ぎ足で追い越していったと言っています。〈国鉄香椎駅から降り立った男女〉〈西鉄香椎駅から降り立った男女〉〈その2組の男女どちらかが佐山とお時だと思われたがこの時点ではわからなかった〉どちらさん?あっいや…。待ちんしゃい!あんた誰ね?警視庁の三原といいます。いや…いいんですよ。失礼しました。嘘をついとっとでしょあんた!いえ…。お父さん!お父さん!お父さん!つや子。お父さん!すいません!あんたか…。いやぁすいませんでした。本庁から電報が来たんですがやはり今さらお教えしても仕方がないと思いまして。拝見できます?ええ。「ヤスダコウエキノシャチョウノヤスダタツオハサンギョウケンセツダイジンハラタネトミノユウジンナリ」「コノママソウサヲケイゾクスル」この安田交易の安田ってのは東京駅で佐山とお時が歩いているのを…。ええ。目撃した小雪という赤坂の小料理屋の女中2人と一緒にいた男です。でその安田が産業建設大臣の原種臣の友人…。ええ…。ふーん。佐山という男は産業建設省の汚職の全容を知っていたと思われる男でした。情死と決まったのにこんなことを鳥飼さんに教えるとまた熱くなるんでしょうね。私もこの事件最初からおかしいと思ってましたよ。おい!はーい!あっ…。お茶。タバコどうぞ。あっ私やりませんので。これ…。あっ。遺留品です。あさかぜの食堂車の領収証。お1人様って書いてあるでしょ?ええ。しかしあさかぜにはお時も乗っていたはずですよね?ええそうですよね。東京駅で目撃されています。しかし佐山は1人で食堂車へ行った。これはどういうことですか?娘も恋人が食堂車へ行くって言ったら付いていくって言ってました。当たり前たい。食欲より愛情の問題やわ。ねえ三原さん。はあ…。ふふ…。いや私はあさかぜには佐山が1人で乗っていたと思うんです。ごめんなさい。仕事大好きなものですたい。お時間大丈夫ですか?ええ。ではお茶どうぞ。ああ…。東京駅で2人一緒に乗って途中でお時が降りていく…。どうでしょう?領収証は14日ですよね?食堂車は何時に閉まるんでしょうか?22時です。するともしお時が途中で降りたとするとその前の停車駅ということになりますか?20時に熱海発それか21時1分に静岡発です。あれ?まさか鳥飼さん熱海と静岡に女が降りたかどうかもう当たったんですか?いやまだですが調査する必要がありますね。佐山が1人でいた根拠は鳳明館に15日から20日まで1人でいます。それから菅原という偽名を使って電話を待っています。ええ。しかしなぜお時は途中で汽車を降りたんでしょうか?うん…。〈三原は上り急行雲仙で東京に帰る〉〈長崎から来る雲仙はまだホームに入っていなかった〉
(汽笛)
(とみ子の声)私と八重子さんはお時さんと佐山さんが一緒にいるところを見たんです。スミちゃーん!またねーっ!
(女子高生)気ぃつけて!
(女子高生)また明日!
(女子高生たち)じゃあね!鳥飼さん!わざわざすいません。あっすいません。あの…二等寝台じゃなかとですか?いやまさか。三等ですよ。ああこれはこれは。東京には何時に着くとですか?明日の午後3時40分です。ここですね。ああ。いろいろお世話になりました。
(汽笛)東京駅もホームは込んでるでしょう。ええ大混雑ですよ。大混雑ですか…。13番線から15番…。んっ?はっ?
(発車ベル)あっ降りるばい。どうも失礼します。ありがとうございました。トリさんほら降りるばい。早よせな早よ!
(田中)トリさん!
(発車ベル)
(汽笛)あの…警視庁の三原さんですか?そうですが…。あの…先ほど門司駅に博多東署から電話がありまして。これを…。どうも。鳥飼さん…勝手に東京に来ても管轄外で捜査はできませんよ。ったく…怒ってますよ博多東署の上司が。すぐに汽車を降りて戻れと。あっ!私の帽子ケツの下に敷いてお説教ですか!この帽子はね…女房が病気の時に必死になって縫ってくれたんです!あの…私のことは気にせんで寝てください。ええ。あさかぜは18時30分発ですよね。何分間ぐらい15番線に止まってるのかな?どうしたんです?あっちょっとすいません!はい。あのちょっとお伺いしたいことがあるんですが。警察ですけど…ちょっといいですか?あの…東京駅の13番ホームから15番ホームに止まっている18時半発のあさかぜ。これ見えますかね?13番から15番のあさかぜが見えるかですか?はい。ああ間に列車が入ってない時があるかという意味ですね?そうですそうです。さあ…大抵列車が邪魔して見えないと思いますがねぇ。念のため調べてみます。少々お待ち願えますか?お願いします。なんですか?おお。いいことおっしゃいましたね。私の思ったとおりでしたらこの事件は完全に殺人です。〈結局車掌からは明確な回答は得られず2人は東京駅の助役室におもむいた〉18時30分のあさかぜが15番線から出発する前に13番線ホームに立ってそれが見られるかですね?はい。あっなるほど…。なんですか?こんな時もあるんだなぁ。見えるんですか?ええですがたった4分間ですよ。4分。たった4分間だけですか?そうです。ちょっとそこ詳しく教えていただけますか?つまりですねあさかぜが15番線ホームに入ってくるのが…。うーん…。さあいよいよこれからが東京駅4分間のミステリーということになります。こんなものを作ってみました。ここが13番線ホームですね。この13番線のホームからあさかぜの止まっている15番線ホームを見渡すことができる。その時間はなんと1日のうち4分間しかないということなんです。この横須賀行きが出発しました。そして次の久里浜行きが4分後にここに入って来るんですがそれまでの4分間13番線ホームからこのあさかぜのいる15番線ホームを見渡すことができるのです。久里浜行きが4分後に入って来ました。そして11分後に出発するんですがじゃあこれが行ったあと見られるかというと実はその前に14番線には普通列車の静岡行きが入構しています。ですから久里浜行きが出発した時にはまた見ることはできないのです。この4分間の間だけの目撃が本当に偶然の目撃だったのかそれとも何か作為のある目撃だったのか…。鳥飼は作為のある目撃だと考えました。
(石坂)そこで安田交易の社長である安田のもとへとおもむいたのです。
(安田辰郎)安田です。どうぞ。捜査二課というと…。ええ実は産建省の佐山課長補佐のことなんです。新聞でご承知かもしれませんが…。佐山さんね…。お気の毒でした。その佐山さんのことなんですが…。あなたは東京駅のホームで佐山さんが小雪の女中のお時さんと一緒に汽車に乗り込むところをご覧になったそうですね?ええ。鎌倉の自宅に帰る時です。小雪の女中の八重子ととみ子が送りに来てくれましてね。その時に見かけました。それは2人が先に気づいたんですか?それとも…。私です。私が佐山さんとお時に気がついて女たちに教えてやったんです。
(安田)あれは…お時さんじゃないか?
(八重子)あらホントだ。お時さんだわ。まあ…お時さんが。
(八重子)どこに行くんでしょう?
(とみ子)あの男の人誰なんでしょうね?お時さんもなかなか隅におけないなぁ。彼氏と九州に旅行にでも行くのかな?その男が産建省課長補佐の佐山さんだとあなたはわかったんですね。わかっているが佐山さんの立場をおもんばかってあえて…。そりゃあそうですよ。そんな野暮じゃありませんよ。失礼しました。ところで産業建設大臣の原種臣氏とのご関係は?兵隊の時の上官です。死線を何度も乗り越えたという間柄ですか。そうですねぇ。随分といろいろなことがありましたね。原大臣のためなら命懸けになりますよね。ハハハッ…。戦争はもう終わりましたからね。失礼な質問をしました。いえ構いませんよ。産建省とはどういうお付き合いです?うん…。道路や橋やビルの工事でいろいろと問題が起こった時にねその解決の方法を助言したりしています。暴力組織や…危険分子を制圧するということですかね。どうしても用地買収とかビル建設とか大きな金が動きますからね。けしからん人間がたくさん出てくるんですよ。そういう人間との交渉は官僚では無理ですからね。なるほど…。お時さんのことですが…。ええ。あなたはよくご存じでしたか?彼女は私の係り女中みたいになってましたが無口な人でねぇ。自分のことは何ひとつしゃべりませんでした。佐山さんとあんなことになる前に相談してほしかったんですけどね。〈2人は赤坂に向かった〉〈東京駅の4分間…〉〈そのことだけを鳥飼が考え続けていることは三原にもわかった〉最初にお時さんを見つけたのは安田さんです。そうですか。東京駅に安田さんを見送ったことなんですけどそれはその時に急に決まったんですか?ええ。銀座のコックドールで安田さんにごちそうになってる時にそうなったんです。銀座でごちそうになった?どうだい鎌倉の家で飲まないか?女将には俺が電話してやるよ。今日は手が足りないのよ。宴会が入ってるから。いくら安田さんでも当日はダメよ。そうかぁ…。たまににぎやかだと妻が喜ぶと思ってなぁ。
(とみ子)ごちそうさま。
(八重子)愛妻家ね。ねえ。
(2人)ふふふ…。そうか鎌倉に来られないならせめて東京駅まで送ってくれよ。ええいいわよ。ねっ。うん。じゃあお店にもう少し遅くなるからって電話してくるわ。何時の電車にお乗りになるの?うん今5時35分だからこれから行けばちょうどいい。何度も時計を見たんですか?安田さんは何度も時計を?よく時計を見るって思いました。君たちが13番線に着いた時鎌倉行きの電車は入ってなかったんですか?
(八重子)入ってませんでした。じゃあ6時かそのちょっと前に着いたってことになるな。そうでした。ホームの時計は6時ちょっと前でした。1日にたった4分だけだ!いいかい三原さん。たった4分だよ。
(アナウンス)「間もなく17時57分発横須賀行きが発車いたします」「ご利用のお客様はご乗車になってお待ちください」今5時56分。あと1分です。
(発車ベル)
(電車の発車音)見えた。ええ。ほら15番線。ほら!ええ15番線あさかぜです。♪〜やっぱり…。えっ?私が言いたいのはたった4分間の空白の瞬間になぜ目撃者がここに立ったのか。♪〜〈三原は警視庁の空き部屋に鳥飼を泊める手続きをした〉布団かな…。ありがとうございました。今日もいい捜査ができました。いえ。あの…安田が度々時間を気にして腕時計を見ていたのは単純に電車に間に合わせるためではなくてあの4分間に間に合わせるためだったんじゃないでしょうか?すなわちですねあさかぜが見通せるのは4分間のうち早すぎてもダメだし遅すぎてもダメなんですわ。ええ。いやしかし…。さっきからずーっと考えてたんですがなぜその時に佐山とお時はホームを歩いたんですか?いやつまり…例えばですよ。例えば安田が佐山とお時が旅行することを知ってたとして…。例えば18時30分発のあさかぜに乗り2人が旅をすることを安田が知っていたとしてもその4分間の間に佐山とお時が都合よく15番線のホームを歩いてるという保証はどこにもないんですよ。実は私も最初これは安田が怪しいと思ったのです。小雪の女中八重子ととみ子に佐山とお時の関係を目撃させることで2人が香椎の海岸で青酸カリを飲んで心中したと見せかけ実は安田が殺したのだと。鳥飼さん。鋭かですねぇ。唯一考えられるのは…ひとつだけです。えっ?4分間の間に2人は15番ホームを歩けと言われたんです。そっ…それは佐山が誰かに歩けと言われたんですかね?安田が殺したいのは佐山でしょう。じゃあお時?お時は安田の係り女中といわれていますがそれだけでしょうか?ええっ?じゃあ鳥飼さんはお時は安田の…。女でしょう。ええっ!?秋田行きの夜行まだありますかね?秋田ですか?ええ。あっ22時上野発の羽越本線秋田行きがあります。秋田着は明日の15時24分。…あっ鳥飼さん!一晩ぐらいゆっくり寝たほうがいいですよ!鳥飼さん!〈翌日三原は鎌倉の極楽寺にある安田の家に行った〉〈刑事だとは告げなかった〉♪〜失礼いたします。つまらないものですが…。東京で安田さんにお近づきを願っております三原と申します。近くにまいりましたものでお見舞いに伺わせていただきました。
(安田亮子)恐れ入ります。安田の家内でございます。いつもお世話になってます。こちらこそ。よもぎ茶ね。よもぎのお茶でいいですか?ええ。主人が摘んで作ってくれるんです。体にいいものですから。素敵なお住まいですね。主人が東京とは3度くらい違うと言ってこの家買ってくれたんです。確かに冬は助かります。ええ景色もきれいで…。代議士さんの別荘だったんですの。ほう代議士さんの?原先生です。ご存じでしょう?原大臣ですか。いえ私のような若輩にはお目にかかる機会はございませんので…。安田に紹介してもらうとよろしいですわ。あの人は人のお世話をするのが大好きなんです。いい人ですからご遠慮なく頼んでみてください。ありがとうございます。しかし安田さんもお忙しくなかなかこちらにお戻りになれずにお寂しいでしょう。ええでも週に一度は必ず帰ってきてくれますの。忙しいんですからあんまり無理して帰ってきてくれなくていいって言ってるんです。でも帰ってきてくれます。やさしい方ですね安田さんは。ええ。どうぞ。ありがとうございます。おいしいですね。
(電話)ああ…。
(電話)
(亮子)はい安田でございます。ああごめんなさい。次のものはまだなのよ。ごめんなさいね。ええ明後日には。はい必ず。ごめんくださいませ。同人誌の随筆の催促でした。失礼いたしました。いえ…。随筆ですか?ええ。寝てばかりでは退屈ですから。ああ…これですか?本格的ですね。ありますね。ふふっ…。♪〜これお借りできますか?ええ。でも…すごく恥ずかしいわ。小学生の作文よ。いえ。
(クラクション)あっちのほうだね。
(鈴)遠いところ来てくださって。あっ仕事ですけえ。何か秀子のことで?あの秀子さんには親しい人がいたでしょう?佐山さんのことですか?いや他の男で。知らねえっす。いたら佐山さんと死んだりなんかしねえでしょう。あなた方が心中だって言ったんですべぇ。すいません。我々間違った判断をしていました。娘さんは殺されたんです。好きな男に頼まれて佐山さんと旅行に行って青酸カリを飲まされて死んだんです。帰ってください。お願いです。心中でもええったす。人殺しの共犯みたいな言い方しないでけれ。明子には秀子は好きな人と死んだんだよって言ったんだす。お母さん好きな人と死んだんだって涙ふきながら笑ってあった。殺されたなんて言えねえったす。お気持ちはわかります。ばってん…。男の人なんか知らねえっす。本当だす。知らねえっす!わかりました。また明日来ます。ええっ?どうも。アハハあい。まったく下手な芝居っこして。刑事さん。刑事さん?明子ー!
(時計の鐘)申し訳ありません。よっぽど疲れてはったたすねぇ。もうバスねえっすよ。泊まってってください。明子。風呂さ火くべれ。
(桑山明子)うん。ああ…ふふ。秀子が刑事さんのこと引き止めたんだすねぇ。四十九日の納骨まで魂ってまだこの世にいるからね。無念なんだすね。再婚してぇって一度聞きました。いつですか?正月でした。
(桑山秀子)ずっとお世話になってる人がいるの。お世話って?
(秀子)しょうがなかったんだ。お金なかったからね。
(ハツ)ごめんね。だども結婚するとよ私。奥さんのいる人だか?でも奥さんご病気なの。病気ですか。
(ハツ)ええ。どんな病気だって言ってました?会社の社長さんで政治家さも顔の利く偉い人だって言ってあったす。おかあさん。かわいそうに秀子…。
(泣き声)四十九日の納骨までには必ず必ず犯人…。
(泣き声)
(亮子の声)「春の海というと宮城道雄の名曲の筝曲『春の海』が思い浮かぶ」「この曲の舞台は広島の鞆の浦だと記憶している」「しかし私にとっての春の海は福岡県の香椎の海である」
(安田)三原?名刺は?
(亮子)いただきませんでした。うん…それはたぶん警察だなぁ。僕のところにも来た。心配はいらない。僕は潔白だからね。
(亮子の声)「今から12年前終戦の翌年昭和21年の5月の初めに私と夫は結婚し九州を旅した」「香椎に来たのは夫が戦争中に片時も離さなかった『万葉集』の中に大伴旅人の和歌に“いざ児ども香椎の潟に白妙の袖さへぬれて朝菜摘みてむ”とあってその場所を踏んでみたいという夫の青年らしい好奇心からである」「海の中道が帯のように延びてその端に志賀島の山が海に浮かびその左のほうには残の島がかすみ青い海が音もなく広がっていた」「満州から帰国し故国の荒廃に胸を痛めていた夫はこの景色によほど感動したのか日本は美しい国だ国破れて山河あり…と涙ぐんだ」安田だ。なるほど。安田現場に土地勘がある…。ええ。香椎で産建省の佐山が女と死んだ…。妙だな。ええ。
(電話)
(電話)捜査二課。あっ三原は私です。鳥飼さん?「犯人は安田交易の安田です」ええ安田ですよ。「聞こえますか?犯人は…」安田です!えっ?三原さんあんた人の話ば聞いて!ええ!?どう…同人雑誌?新婚旅行に香椎に…。それ本当ですか!?鳥飼さん。どうした?恋人がお時に…。会社の社長…病気の妻がいる?安田じゃないですか!もし安田とお時が恋人同士だったらあの4分間の間に佐山とホームを歩けと指示すれば…。それですよ鳥飼さん。お時は安田に命令されて佐山と15番線のホームを歩いたんです。ええ…。3時から会議でございます。〈その日警視庁上層部から突然捜査の中止命令が出た〉〈納得できない三原は単身産業建設省に乗り込んだ〉
(ノック)警視庁捜査二課の三原と申します。石田局長にお会いしたいのですが。
(佐々木喜太郎)局長は今から会議でございます。
(ドアの開く音)
(石田芳男)なんです?こちらは…。聞こえたよ。これから会議がありますので時間がありません。なんでしょう?実は安田交易の安田さんのことですが。よく存じ上げておりますよ。局長と安田さんとはどういうお付き合いでございますか?原大臣のご紹介ですよ。噂では随分親しいお付き合いをなされているとか。ええ。義理に厚いいいお方です。さすがに答弁には慣れていらっしゃいますね。ハハ…いえいえ。そんなことはありませんよ。参考までに伺いますが…。どうぞ。4月20日。これはご存じのように佐山課長補佐が亡くなった日ですが…。局長さんはどうしておいででした?北海道に行っておりました。北海道。釧路で会議がありましたから。20日の19時15分に急行十和田で上野駅を出発しております。20日の19時15分発急行十和田ですか?
(佐々木)さようでございます。安田様もご一緒でございました。一緒に行きました。失礼します。ちょっと。確かに20日ですか?それは安田さんも一緒に行ったんですよね?
(佐々木)はいもちろんでございます。〈佐山とお時が香椎海岸で死んだ日に安田は急行十和田で石田局長と一緒に上野から札幌に向かっていた〉
(安田)4月20日ですか?はい。私に何か嫌疑でもかかってるんでしょうか?いえそういうわけではないのです。参考までです。4月20日ですね。ええ…20日は北海道に出張してます。札幌に双葉商会といって私のほうの取引先がありましてそこに行っていました。北海道には2日ほどいて25日には東京に戻ってきてますね。詳しゅう教えていただけますか?20日の19時15分に上野を発ちました。これは十和田号です。それはお1人ですか?いえ産建省の石田局長と一緒ですね。青森には翌朝の9時9分に着きました。これは9時50分発の青函連絡船に接続があります。それに乗船しました。函館には14時20分に着きました。これも根室行きの急行に接続があります。14時50分発のまりもです。札幌に着いたのは20時34分。駅まで出迎えてくれた双葉商会の河西さんという方の案内で市内の丸惣という旅館に入りました。これが21日の夜です。22日23日とそこに滞在して24日に北海道を発ち25日に東京に帰京してます。ハハ…あなた方の仕事も楽じゃないですね。いろんなことを調べなければならないわけですから。妻に警察だとおっしゃってくれなくて助かりました。妻は体が悪くてね。今後は穏便にお願いします。安田は第三者の目撃者が欲しかったんです。ええ。安田以外の者に2人の姿を目撃させる必要があった。それは安田が2人を殺すためです。しかし鳥飼さん…。アリバイなんか崩さんでどうするんですか。
(寺崎)三原君。あの課長こちらが博多の…。なんの話だ!はっ?なぜ勝手なことをしているんだ。私が決定したんじゃないんだ。捜査中止は警視庁トップの判断だ。わかってるのか三原!警察官を辞めるのか?失礼しました。笠井です。ああ…私鳥飼重太郎と申します。今回仕事で来たわけではないので名刺は出しません。お許しください。博多東署じゃ休暇扱いになってるそうですよ。休暇?おたくの田中主任から電話がありました。休暇届を出しておいた。とにかく帰れ。これ以上はかばいきれん。…とおっしゃってました。今課長が申したとおり捜査の継続が困難になりました。三原。安田のアリバイ確認したのか?ええ。産建省の石田局長の証言どおりなんだな?そうです。そうか。じゃあ鳥飼さんを東京駅までお送りしろ。主任。安田が犯人です。東京駅の13番ホームから15番ホームを見通せるのは1日のうちわずか4分。安田はそれを知っていました。だから安田が犯人です。主任!
(ため息)なんで言わんとですか?安田が犯人だと。アリバイなんて自分が崩してみせるとなんで言わんとですか!三原さんあんた刑事やろ。上がやめろと言ったらあきらめるんですか?悪い奴を捕まえて給料もらっとるんでしょ?
(ため息)東京駅行きますね。イライラしますよ。何が?いくらどんなことを言われようと警察官は上の命令に反抗することはできません。そんなことは鳥飼さんよくわかってるでしょう。反抗しろ!できません。刑事はな事件の真実を…。死んでいったお時や佐山の魂になんと言うんじゃ!何をするんです!♪〜♪〜何やってるんだ!三原やめろ!♪〜三原落ち着け!止まって止まって!〈翌日鳥飼の情熱に押された三原始め捜査員たちは産業建設省の汚職の捜査続行を強く主張した〉〈だが寺崎捜査課長は捜査継続に消極的だった〉〈佐山とお時が死んだ日に安田が北海道に向かっていたというアリバイがあったからだ〉
(鶴田)「フタバショウカイノカワニシノショウゲンニヨレバシガツ二一ヒサッポロエキニテヤスダニアッテイル」
(鶴田)安田は確かに札幌に行っております。いやしかしですねくどいようですが4分間の目撃者を安田が作ったことは安田が佐山課長補佐の情死になんらかの役割を演じているという疑いを捨てきれないのです!私を北海道に出張させていただけませんか?安田は自分が4月20日の夜10時から11時に香椎海岸にはいなかったという証明のために札幌に行ったんです!課長私に任せていただけませんか?
(寺崎)それはダメだ。今までの会議の内容では上を説得できるだけのものがない。〈その頃鳥飼はお時こと桑山秀子のアパートへ行った〉
(大家)女の人から時々電話がありましたよ。女の人!?時々ですけど桑山さんお願いしますって電話が。あの名前は?ちょっと思い出して!名前言いませんでした?いいえ。いつも桑山さんお願いしますってだけで。それで?はい。電話があるといつもすぐに外出したんですね。
(大家)はい。博多の鳳明館に電話してきた女と…お時に電話してきた女…。たしか…安田亮子が原稿を書いている雑誌だ。
(亮子の声)「ある日主人が帰って汽車の時刻表を忘れていった。退屈まぎれに手にとってみた」「意外にこれが面白かった」「私はふと時計を見る。午後1時36分である」「私は時刻表を繰り13時36分の数字のついた駅名を探す」「すると越後線の関谷という駅に122列車が到着している」「鹿児島本線の阿久根にも139列車が乗客を降ろしている」「飛騨宮田では815列車が着いている」「山陽線の藤生信州の飯田常磐線の草野」「私がこうして床の上に自分の細い指を見ている一瞬の間に全国の様々な土地で汽車がいっせいに止まっている」♪〜♪〜
(滝井ハナ)どうぞ。誠に申し訳ございません。あいいえ。退屈してますから大歓迎ですわ。何か私に?これを。
(亮子)あっ!
(安田)ああ。妻が随筆を書いている同人誌ですね。桑山秀子さんの部屋にあったんですが…。桑山?お時のことですか。ええ。あのー桑山さんとはお付き合いございましたか?いいえ。あ小雪に持っていったかもしれないな。嫌だわ恥ずかしいわ。
(安田)いやぁこの随筆が面白いので彼女に見せたかもしれない。それを持っていったのかな。時刻表を見るのがお好きなんですね。
(亮子)ええ大好きなんです。どこへも行けませんから空想の旅を楽しむんです。香椎の海岸に昔新婚旅行で行ったそうですが…。ええ。昭和21年のちょうど今頃でした。ふふ楽しかったわね。
(安田)うーん。
(安田)戦争が終わってやっと平和な時代になると思って…。春の海がきれいだった。
(亮子)お2人に悪く言いたくありませんけど…。どうせ心中するんならどこかよその場所でしていただきたかったわ。
(安田)そろそろ疲れますので。安田さんあのー…お時さんによく女の人から電話があったそうなんですがお時さん電話受け取ると化粧をしていそいそと出かけていったそうです。多分愛人の代理の女だと思うんですがそのことについてはお時さんからなんかお話伺ってますか?聞いてません。疲れたかい?
(安田)そろそろ横になったらどうだ?どうもお邪魔しました。
(安田)いいえ。〈鳥飼はその足で安田亮子の主治医である長谷川医師を訪ねた〉
(長谷川)病気は播種性結核といって治療が難しい厄介なものです。病気にかかってどのくらいですか?もう3年以上になりますね。治るんですか?難しいと思います。そうですか。旅行には行けるんでしょうか?湯河原に奥さんの親戚があって時には1泊か2泊で遊びに行くそうです。それぐらいならできますよ。1泊か2泊。それくらいなら外に出られるんですね。ええ。あの例えば…夫婦関係はどうでしょう?無理でしょうね。ご主人どうしてるんでしょうか?つらいんじゃないでしょうか?ふふ…そんなこと私に訊かれたって。
(ため息)お土産です。私には捜査権がありませんのでお渡しします。課長やはり桑山秀子と安田は関係があったとみるべきでしょう。安田の妻の亮子が時刻表を見るのが好きだというのは…。亮子も事件にかんでいるんですよ。列車ダイヤを見るのが好きだって言うんでしょう。東京駅の4分間のことは亮子が見つけたのかもしれません。事件発生時の20日の夜9時半頃香椎駅付近で2組の男女が目撃されています。1組は9時24分すぎ国鉄香椎駅の果物屋の前を通りすぎる男女。そしてもう1組9時35分すぎ西鉄の香椎駅の前を歩く男女。
(女)随分寂しいところね。この2人は佐山とお時安田と亮子だと思われます。「随分寂しいところね」と言ったのがお時です。なぜなら彼女は初めて香椎に来たからです。お時と一緒に歩いていたのが安田。もう1組が佐山と亮子だったんではないでしょうか。まあそこまではまだ断定できないと思うが安田亮子がこの事件にかかわっているのは多分間違いない。よし徹底的に調べよう。三原。はっ。
(寺崎)北海道へ行ってきてくれ。はっ!〈三原は安田のアリバイを確かめるため安田が乗ったと証言した上野発19時15分の急行十和田に乗車〉〈札幌に向かった〉
(汽笛)
(児島)先輩!悪ぃな。お茶!おー置け置け。
(車掌)おはようございます!まもなく終着駅青森でございます。青函連絡船で函館にお渡りの方は乗船名簿にご記入願います。
(乗客たち)はい!はい函館に行きます。〈記入した用紙は乗船口で渡した〉〈青函連絡船は9時50分に青森を出て函館に着いたのは午後の2時20分であった〉
(汽笛)〈30分待って2時50分発の急行まりもで札幌に向かった〉〈鳥飼は特急あさかぜから途中下車したであろうお時こと桑山秀子が熱海か静岡の旅館かホテルまたは別荘に泊まったものと推理した〉♪〜〈夜8時34分まりもは札幌駅に到着した〉〈2人は札幌中央署の服部刑事の迎えを受けそのまま安田が泊まったという丸惣旅館に出向いた〉〈安田の宿泊は確認された〉〈2人は双葉商会の河西に会いに行った〉
(河西徹夫)4月21日に安田さんが札幌に来た時に駅まで出迎えに行きまして…。
(河西)21日のまりもで到着するから駅の待合室に来てくれと電報をもらいまして。で丸惣旅館まで一緒に行きました。河西さんあなたは安田さんがまりもから降りるところを見ましたか?いやぁ…。見てないんですね。はい。待合室にいてくれと電報にあったんで私は列車から降りる安田さんを見てません。電報で待合室にいてくれと言われたんですね。
(河西)ええ。〈2人は函館に向かった〉〈青函連絡船の乗船名簿が安田のアリバイを崩す最後の手がかりだった〉これは…。
(児島)産業建設省の石田だ…。一緒に行きました。あっ!
(児島)安田の…。産建省の石田局長と一緒ですね。同じ字だ…。ええ。安田はやっぱり接続のまりもで札幌に来た…。アリバイは完璧だ…。
(児島)三原さん!おう!どうした?産建省の事務官が石田局長の代理で出頭してきました。石田の代理で何を言いに来たんだ?いやね石田に安田のアリバイのことで問い合わせをしたんです。そしたら石田から電話があって北海道の安田と同行したことを証言すると言って佐々木という事務官をよこしてきたんです。三原さん!それこそ安田と自分が共犯だって言ってるようなもんじゃないですか。行きましょう。先程も申し上げましたが…小樽を過ぎた頃北海道庁の稲村勝三氏が挨拶に来られたそうです。北海道庁の稲村勝三氏ですね。でその稲村氏はどこからまりもに乗ったんです?
(佐々木)函館だとおっしゃっていました。それで局長と話しているところへ安田氏が次の札幌で降りると挨拶にいらしたので稲村氏を紹介したそうです。稲村氏に聞いてもらえればよいとおっしゃっております。ちょっと待ってください。今安田氏が次の札幌駅で降りると挨拶に来たとおっしゃいましたよね。はい。確か先日産建省で話を聞いた時には上野発19時15分の急行十和田で一緒に行ったと石田さんは言いましたが席は一緒だったんでしょう。いえ。別々だったそうです。別々…?なぜです?石田局長は一緒に行ったと言いましたよ。〈三原は安田に面会を求めた〉〈安田は心地よく応じた〉
(とみ子)いらっしゃいませ。
(とみ子)失礼します。やあいらっしゃい。どうも。
(中原小雪)お座敷では帽子は脱いでくださいな。あ失礼しました。2人が変なこと言うもんだから安田さんにご迷惑かけて。ホントになんてことを…。もうその話はいい。しょんぼりするな。今度またなんか買ってやろう。
(2人)アハハ…嬉しい!いいんですよ。バカな子たちなんだから。お時に香典までいただいて。あとで秋田から親が来ますからちゃんと渡しますからね。あのお時さんの母親が秋田から来てるんですか?
(小雪)ええ。
(安田)さあ飲みましょう。お酌をしてさしあげて。
(2人)はい。飲めないから。ここの鰻はうまいですよ。利根川の天然鰻です。鰻は人間の肉も食うって知ってますか?ハハハハ…それで精力がつくのかな。まあどうぞ。札幌に行った時ですがなぜ小樽駅まで石田局長に挨拶しなかったんです?私一人旅が好きなんですよ。弁当を食べたり本を読んだり眠ければ寝たり自由気ままにすることが好きでね。石田さんはああ見えてとてもおしゃべりで挨拶に行けばつかまえて離してくれませんから。そうですか。それじゃあ札幌駅の待合室に河西っていう人を待たせたのはなぜです?なぜホームじゃないんです?ホームは込んでますしね。
(安田)もし見失えばウロウロしなくちゃならないでしょう。上野から乗った急行十和田の席ですが何号車の何番の席でした?
(安田)1号車ですが席は覚えてませんね。真ん中の辺りでした。車掌に聞けばわかるんじゃないですか。
(安田)それにしても大変な仕事ですなぁ。産業建設省と代議士の先生を相手にやり合うわけですからね。ハハハハハ。
(安田)うん!よもぎです。妻がこれのお茶が好きでしてね。これはどうも。咳とか喉にいいらしいんですよ。あの…原大臣はあなたの上官やとおっしゃいましたね。そうです。満州の頃の上官です。関東軍ですか?そうです。ソ連が攻めてきた時日本人を助けず自分たちだけ逃げたあの関東軍ですか。全ての兵隊たちがそうだったというのはあなたの間違いですよ。原さんや私は必死に戦った。ソ連兵も随分やっつけた。自分は支那事変の頃からずっと兵隊で機関銃を抱えて中国中を歩きベトナムへ行ってまた中国へ帰って戦闘ではからずも多数の人々を殺しましたが逃げはしなかった。私のこの体の中にはグラマンの機銃弾の破片が4つ入っております。一緒にいた小隊の戦友は全員死にました。みんな戦争で人を殺すのはヘドが出ると思っていました。帰りたい帰りたい日本に帰りたい。殺されたくない殺したくもない。毎日日本のことばかり。国に残してきた妻と子と父と母と女と。そう思ってる奴ら全員死んでしまいました。だから自分は機銃弾の破片をそのままにしとるんです。生きたい殺されたくない殺したくもない。戦争で死んだ戦友を忘れないために。私は戦争を心の糧にしてないということですか。哀れやと思います。哀れ?命の重さや愛を戦争でなくしてしまい人間の皮をかぶった鬼となって日本へ帰ってきた。善と悪の区別もつかない哀れな戦争被害者です。私は病気の妻を唯一この世の支えだと思っている普通の市民だがね。今日は…。どうもありがとう。
(永井)ですからね課長さん鳥飼を帰らせていただきたい。こちらが心中として処理した事件ですよ!ですから殺しの可能性があり…。
(永井)「それはさ当方とはなんの関係もない!」「休暇で上京中の鳥飼が管轄外で捜査しているのを本庁が黙認してるんですか!」
(ノック)「いやこちらはさ…」佐山憲一と桑山秀子が情死だというその判断には自信を持っております!
(中西)はい捜査課。ええから!!早く鳥飼帰さんか!
(子供たちが遊ぶ声)こんにちは。はい…。こんにちは!私も手伝いましょうか。
(ハツ)そうすか。せば本くくってもらうべか。
(子供たちが遊ぶ声)明子外さ行ってれ。
(明子)うん。私はバカだすねぇ。鳥飼さんがあんまし熱心であんた田舎まで来てけれなんか土産でも渡さないと腹の底そんた気持ちがあったども男がいたなんて口走って…。わがっだすか?男の人。あぁ…。悔しかったと思いますよ。
(ハツ)なんも…いいことのねぇ一生であった…。♪〜んだども憎いね。なんで殺したったすか?佐山さんを殺したかったんです。佐山さんを…!?佐山さんはある事件の秘密を全部知っていました。それで娘さんと心中したように見せかけて…。鬼だすねぇ!!かわいそうにぃ…。開がねぇ…からくり箱だすねぇ。その男と箱根さ行ったったっす。箱根?それ箱根の土産だすべ。箱根って…熱海に近いんですか?えぇ?私さ訊かれても…。
(ハツ)安田って…秀子の男の人の名前ですか?かわいそうに秀子…。鬼の祝儀を大切にして…。♪〜
(ノック)おい!開け!
(ノック)おい!
(女性の声)どちら様?警察。開けんか!
(ノック)おい!あ…!なんですか!?なんのご用事?ここは宿屋か?違いますよ…。私の家ですよ。もぐり営業か。お忍びで来る男女ば泊めるとこやなぁ。誰も泊めたりなんかしやしませんよ。そりゃあたまには親戚が来て泊まったりしますけど。じゃあ安田辰郎はあんたの親戚かい?それとも桑山秀子さんがあんたの親戚か?知りません。誰です?その人。あんたちょっとこっち来て。おい!なんですか…。4月14日の真夜中小田原からこの人を乗せてここまで送ってきたタクシーの運転手です。そのとおりです。時々お越しになりました。相手は安田交易の社長の安田だよねぇ。…はい。いつ頃からここ来るようになったの?もう3年ぐらいになりますかねぇ…。3年。ええ。昭和29年。29年の8月から。桑山さんいつも安田さん来るまで嬉しそうにご飯作ってましたけど安田さんは絶対食べませんでした。食べない?ええ。「奥さんが悲しむから」って言って…。4月…14日についていつまでいたんですか?19日の9時頃出てきました。女の人が訪ねてきたんです。女!?ええ。どげな人です?中年の…とてもきれいな人でしたよ。その人が来た時の桑山さんの驚きようっていったら…。その中年の人はとてもきれいな人だったんですね。はい。2人で夕食を食べて9時に車で熱海駅へ。9時に熱海。それは4月19日の9時ってことですね。はい。車といえばハイヤーですか?いえ黒い車で…。私玄関先まで見送っただけなのでよく見えませんでしたけど…。♪〜
(フクロウの鳴き声)♪〜4月19日から二十何日でしたっけ?25日までです。安田亮子さんがどうしていたか知りたいんですが。それは事件に関した捜査ですよね。念を押すようですが。もちろんです。すいません。あ…失礼。鳥飼さん…。警視庁の三原と申します。私の名刺出してちょうだい。はい!私は週に2度安田亮子さんを往診しています。えー4月の19日から25日までの間で私が彼女に会ったのは22日です。22日。なんか変わった様子ありませんでしたか?熱がありましたね。熱?38度近くありましたね。なんでです?伺ったら「19日から湯河原に行っていて22日に帰ってきた」とそう言っていました。湯河原?外泊したんですか?「遊んできた」と言うので「無理をしないように」ってそう言ったんですけど。19日から湯河原…。「22日の朝に帰ってきた」と言ったんですね?そうですよ。
(長谷川)私の名刺まだぁ〜?
(鳥の鳴き声)19日の9時過ぎにお時は迎えに来た女と箱根の旅館を出て…。女は亮子ですけど…。時刻表持っとりますか?はい。10時過ぎの博多行き。10時過ぎ…。あった。急行筑紫。熱海を10時32分終着の博多には明くる日の20日の19時45分。ピッタリじゃないですか。えー博多の鳳明館に菅原という偽名で佐山が泊まりそこに女の声で呼び出しがある。これが8時ですよ。亮子は博多で列車を降りたあとじきに佐山を呼び出したんでしょう。はぁ〜。鳥飼さん実は…博多東署から是非鳥飼さんを帰してくれと電話があり…。なんか博多のほうも意地になってるらしくとにかく帰せ!と言い鳥飼さんの上司の方が出向いてくるそうで…。昨夜はどこに泊まったんですか?野宿です。佐山とお時を殺したのが安田とその妻の亮子だってこと今わかってきたのに…!!鳥飼さん…。
(ブザー)いらっしゃいませ。奥さんはいらっしゃいますか?はい少々お待ちください。あっどうぞ。鳥飼さん!何をするんです?帽子。あっ帽子…!?ありませんか…?いいです…。
(ハナ)どうぞお上がりくださいませ。鳥飼さん。自分ちょっと見てきますよ。いや三原さんええです。こんにちは。どうぞ。先日は美味しい果物ありがとうございました。失礼致しました。警視庁捜査二課三原と申します。主人とよもぎを摘んでくださって。私博多に帰ることになりまして。いろいろご迷惑をおかけしました。いいえ。わざわざご挨拶にいらしてくださったんですか。ええ…。どうにもこうにも悔しくてしょうがありません。まっ…ハハハハハ!あなたとご主人が共謀して産建省の佐山課長補佐と小雪の女中お時さんを九州福岡の香椎の海岸に連れだし青酸カリを飲ませて殺したことは私がはっきりわかっているんです。しかしご主人の北海道行きのアリバイが崩せず博多に帰ることになり無念でなりません!それで今日はあの…女房に作ってもらった帽子をなくしてしまいそのことのほうが捜査が中止になったことよりショックで。奥様の帽子ですか?ガンで死ぬ前に私に作ってくれたんです。刑事は外歩くでしょう。雨風雪夏の太陽…。もう…頭はたまったもんじゃありません。それで女房が「雨にも負けず風にも負けず夏の暑い太陽にも負けないでいい仕事をしてくれね」と私に作ってくれたんです。お亡くなりに…?3年前に死にました。お気の毒ですね。お寂しいでしょうねぇ。寂しいです。しかし先に逝った女房のほうが寂しかったと思います。そう思いませんか?奥さん。大好きな夫が自分がいなくなったあと別の女と再婚するのかと思うと仕方がないと思う反面どうしても嫌だと思う人もいるでしょうねぇ。さぁ?それはどうでしょう。4月19日箱根の旅館にお時さんを迎えに行きましたよね。♪〜いや答えなくて結構ですよ。これ尋問じゃないですから。ただ私の無念の叫びを聞いて欲しいんです。どうぞお伺いしますわ。私の考えを申し上げましょう。お時さんはご主人の愛人です。あなたがお時さんに頼んでそうなってもらったんです。お気の毒ですがあなたはご主人の夜のお世話ができません。それでお時さんに頼んでそうなってもらったんです。お金で割り切って主人と付き合って欲しいと。お時さんは悩んだと思います。しかし彼女は秋田の実家に娘さんがいます。毎月仕送りもしています。お金が必要だったんです。それで安田さんの愛人になったんです。あなたは多分お時さんにこう言ったはずです。「主人とのことは絶対口外しないこと」。なぜなら安田の女はこの世で1人でなくちゃならないからです。お時さんは約束を守りました。あなたがどんだけつらいかわかってるはずです。しかし彼女は安田さんを愛してしまったんです。箱根の旅館で秘密に関係を持つうち悲しい夢を見てしまったんです。あなたがこの世にいなくなったら安田の妻になる…と。私が死ねば安田もあとを追うでしょう。あなたはお時さんが安田を取ってしまうんではないかとおびえたんです。申し訳ありません奥様が…!いやあの…このままで結構ですよ。2〜3分で終わりますから。私は話を聞いて欲しいだけです。今日で捜査は終わります。その頃のことです。産建省の汚職が騒がれ始め佐山課長補佐にも警察の手が伸びそうになりました。安田は佐山さんをどうにかしなければ恩ある原大臣まで危うくなると苦慮しました。それであなたは恐ろしい計画を考えたんです。九州福岡の香椎の海岸に2人を連れだし青酸カリを飲まして情死に見せかけて殺してしまおうと…。
(高笑い)4月19日に私は箱根に行きました。え?お時に話があるから来てくれと言われたんです。話…なんの話です?佐山さんから求婚されて断ったがどうしても博多で話がしたいって誘われた。どうしたらいいか?…って訊くので私はあなたもそろそろ身を固めるべきじゃないかと。佐山さんなら安定した生活をすることもできるしとにかく博多へ行ってゆっくりお話をしなさいと説得して9時に夫に車で迎えに来てもらって熱海の駅に行きホームで博多行きの特急筑紫に乗るお時を見送ってから東京の九段下にある安田の家に行き翌日上野から北海道に出張する安田の世話をして22日の朝ここにおりました。お時は佐山さんの求婚を断って寒い場所ですからウイスキーでも勧められて飲んだんでしょう。それに青酸カリが入ってたんです。ウイスキーですか?ウイスキー。現場にはジュースの瓶が残ってたんですよ奥さん。私は…。私に言ってもわかりません。ウイスキーですか?ウイスキーに青酸カリを入れて飲ませたんですか?ふ〜ん。その日春にしては香椎の海岸は寒かったですからねぇ。私は九州へ行っておりません。安田は札幌へ出張しておりました。えぇそれはもう…えぇ。ええ…失礼致しました。お体気を付けて。どうもごきげんよう。
(波の音)
(風の音)私は博多に帰らなければ。これ以上みんなにご迷惑はかけられません。逮捕したかった。犯人は安田と亮子です。わかってるのに…どうしても安田の北海道行きのアリバイが崩せなかった…。我々が必ず安田のアリバイを崩します!三原さん。あんたもようわかっとると思うが。は?安田と亮子は青酸カリば持っとる。もしかして…自殺するかもしれんから決してそのようなことがないように。2人に死なれたらこの事件はいっぺんにアウトじゃけん!ええ。わかりました。2人から絶対に目を離さんでくださいよ。はい。
(少年たち)ありがとう!♪〜俺たちは貧乏なんやなぁ。え?飛行機なんかいっぺんも乗ったことないから思いもよらんわ。この503便に乗れば札幌には…17時30には着きますね。ええ。安田はこれに乗ってきたのかもしれない…。あぁそうだ…!ちょっと待ってください。えーっと…。函館本線えーっと…17時40分。札幌駅発の普通列車ありますよ。そうするとそれに乗って小樽まで行った。これが小樽に着くのは18時44分です。うん。14時50分に函館駅を出たまりもは…19時57分に着きます。安田は1時間ちょっと待ってまりもに乗った。そして石田と北海道庁の役人の席に顔出したんです。石田さん。あっ安田さん。私札幌で降りますので。あっそうですか。こちら北海道庁の稲村さんです。稲村でございます。そして安田は札幌駅に戻った。20時34分です。そして待合室で双葉商会の河西の前に姿を現したんです。どうも〜!どうもありがとう。できました。ええ。とうとう安田のアリバイが崩れました。お待たせ致しました。どうぞ。パッセンジャーリストですか。はい。ご搭乗になっているなら必ずこの中にお名前が残っているはずです。♪〜予想どおり安田辰郎の名前はなしか。はい。20日の東京−福岡の305便翌21日福岡−東京の302便東京−札幌の503便に絶対に安田は乗っていなければなりません。この20日の305便これは安田が20日の夜上野から急行十和田に乗ったと証言している以上20日までは東京にいたはずです。すると20日の午後の汽車で博多に行ったのでは香椎の海岸に到着することはできない。従って安田はこの15時羽田発305便で福岡に飛んだはずだということになるわけです。305便は途中大阪に寄りますが福岡までの乗客は43名そのパッセンジャーリストに安田の名前はありませんでした。302便にも503便にもありませんでした。合計145名か…。その中から安田を見つければいいわけだな。はい。必ず安田がいます。うんやったじゃないか。よし145名全員調べるぞ!
(一同)はいっ!お願いします!いってきます!はい!失礼…。ください!鳥飼さん。帰るばい。どうもすいませんでした。寺崎課長は?おらんです。主任さんあの…うちの田中です。あっあなたが。笠井と申します。博多東警察の田中です。こん度は誠にご迷惑ばおかけして恐縮しております。いやとんでもない!帰したくないんですが仕方ありませんね。
(田中)お世話になりました。列車は何時ですか?あのー今日は切符が取れんかったもんで…はい。皆さんお世話になりました。ありがとうございました。お疲れ様でした。勉強になりました!ホント助かりました!もっといてくださいよ。また一杯やりましょう。またお会いしましょう。鳥飼さん飛行機に乗った安田の乗船名簿がなぜ函館駅にあるんでしょうか。飛行機で札幌に行ったわけですから安田は函館駅に行けないはずですけど…。あっ!
(電話のダイヤルを回す音)もしもし?私東京警視庁捜査二課の三原という者ですがちょっとお尋ねします。青函連絡船の乗船者名簿ですがあれは例えば他人が出すことは可能なんでしょうか?ええ他人です。例えば当人が乗らずに事前に乗船者名簿を…。え?乗船者名簿はいつでも青森と函館駅に置いてある?ええじゃあその時に入手しなくても…。わかりました。ありがとうございました。乗船名簿はいつでも駅に置いてあるそうです。つまりその日安田が乗ってなくても事前に書いたものを誰かが出せば乗ったことになるというわけです。誰がそれを…石田かな?いやもう1人乗ってたんですよ。あいつだ。ええ。一緒に行きますか!鳥飼さん!!いや帰ります。トリさん…まだ時間はあるばい。もうよかです。
(田中)そうか…。まぁこんだけ本庁の皆さんにようしてもろうてよか思い出になったの。これなんですが…。これをあなたが函館と青森の両駅に出したのではありませんか?私が?ええ。いえ。出していない。存じません。そうですか…。4月20日急行十和田に乗りませんでしたか?乗りません。私は建設会社の人たちと打ち合わせで東京におりましたから。あぁ…お名前を申し上げますので…。当日の十和田の車掌が安田交易の安田さんの席に眼鏡を掛けたホクロのある人が座っていたと証言していますが。私ではございません。その建設会社は山本建設の…。三原さん!車掌さんにお会いしてもらったら?
(児島)そのほうが早いでしょう。ええ。そうしていただけますか?かしこまりました。今支度をして参ります。
(3人)待て!!おい待てー!待てー!待て!放せー!放せ…!あー!
(原)大臣としての責任はとるつもりだよ。先生先生が清廉なお方であることは国民の誰もが知っていることです。この度の件については決して先生の名を辱めるようなことはさせませんのでどうか…誰にも辞意を漏らさぬようお願い致します。しかし安田。はっ!このバカの事務官が二課に連れて行かれたんだろう。大臣佐々木は何も知りませんのでどうかご安心を。大臣のことは何も知らんというのはどういう意味だ。まるで大臣が汚職に関わっているような言い方だな!いえ…。
(安田)これを。あぁ…!お許しください!お許しください…!あぁ…!あぁ…!
(安田)先生。どうぞご安心を。♪〜♪〜警察だ!こっちだ!連絡だ!はい!
(汽笛)
(汽車の走行音)おい。
(汽笛)随分寂しいところね。
(電気の傘が揺れる音)
(電気の傘が揺れる音)
(吐き出す音)あぁ…!
(安田の声)おい!
(亮子の声)はいあなた。
(安田の声)終わったか?
(亮子の声)はい済みました。
(波の音)
(汽車の走行音)
(汽笛)安田!安田さんと奥様はいらっしゃいますか?おい!!
(汽笛)
(カメラのシャッター音)♪〜今何時ですか?8時たい。安田と亮子は逮捕されましたかね。ん?安田の女房がこの間ええ顔したんですよ。信子に作ってもらった帽子をなくしてしまいしょんぼりしとったら「奥様の帽子ですか?」って微笑んで…。その時の顔が…とてもきれいやった。亮子のことを憎めんとね。女っちゅうのは…弱いけん。男に惚れて惚れて…死んでいくとです。
(汽笛)♪〜さあ『点と線』は終わりました。博多に帰った鳥飼は安田と亮子の死によってこの事件の背後にあった巨悪というものを暴くことができなかったのはたいそう無念だったに違いありません。鳥飼と三原がこのあと出会ったかどうかそれは原作にも書かれてはおりません。ではここでもう一度東京駅での鳥飼の姿を見ながらお別れいたしましょう。
(汽笛)ほら15番線!ええ。ほら!なぜです!なぜあいつがこの4分間のこと知っちょるんですか。♪〜♪〜♪〜♪〜
(汽笛)
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